ランドスケープ

風の抜け道 命の居場所 〜「多治見市営住宅国京団地第2期」より〜

幼い頃の淡い記憶の奥に郷愁のように浮かび上がる光景は、どれも不思議と自然の営みと共にあり、まばゆいほどの四季の光に彩られています。木造で低層の家々は風景の一部であり、外の気配を感じながら、心地よく通り抜ける風に身を委ねることができる穏やかで安堵した空間でした。

そこでは、土が呼吸し、風が薫り、水がそよぎ、光溢れ…、森羅万象の摂理を肌で感じることができました。そんな心象風景を現代の鉄筋コンクリートの集合住宅に再現することは可能だろうか。その問いがいつか私達の夢となっていきます。閉ざされた無機質な画一性からの脱却、それは、現代建築の可能性に対する飽くなき挑戦でもあります。

多治見市営住宅国京団地の仕事は、まさにその可能性を具現化する途上での回答を示唆してくれる一つのケーススタディとなりました。

多治見市営住宅国京団地は、多治見市の最北にあり、敷地北側の森林を背景にした丘陵地にあります。この斜面地での配置計画がこの仕事の最大の難関であり、醍醐味となります。景観を保全し、建築がその場のランドスケープの構成要素としてパラレルに存在する、そんな理想的情景を実現するために、現況地形の土木的改変を最低限にするための検証を繰り返しました。そのなかで辿り着いた結論は、今後の私達の建築の方向性を決定付けたと言ってよいほどのエポックメイキングなソリューションとなりました。

当初、北側の高台に向かって階段状に、且つ平行に建物を配置する計画でした。しかし、この配置計画では何かが欠落しているという漠然とした感覚がどうしても拭えません。スタディを続けていると、ある時、建物が風の流れを遮断していることにふと気づきました。その土地の気の流れと言うのでしょうか、この流れに添って再配置を試みました。すると、建物が無理なく地形に融合していき、ランドスケープとの一体感が図らずも確立されたのです。それは小さな発見ではありましたが、私達の配置計画に対するそれまでの既成概念は大きく揺り動かされたのでした。

この配置計画が完成したことによって、他の提案もその真価を最大限発揮することになります。

北側の森林地帯の豊かな自然を建物が遮らずに、いつでも、どこにいても緑が感じられる場づくりが可能になります。敷地内に配置した「広場」や「遊歩道」 「児童遊園」「原っぱ」「菜園スペース」が、自然に風が通り抜ける空間になっているだけでなく、地域住民の通り道となり、集う場ともなります。

さらに自然に調和した景観づくりに積極的に配慮し、(※)枯れ流れをつくることによる地表面の緑化や、コンクリート構造物の使用を極力抑制した自然な法面処理を施します。これらの処置により、森林の緑や季の気配がいっそう深く生活に馴染んでくるでしょう。

在来種をベースに自然な景をつくる。

四季折々の表情と風情のある自然のなかの住まいを創造します。敷地が台地 であるという特性を活かし、眺望のある空間を備えます。また、建物そのものもランドスケープ景観の一部と捉えた外観デザインとします。