町家・伝承建築

町家の魅力

ここ高山は、400年前に時の城主が京都を摸して造り上げた城下町です。江戸時代には天領であったため、江戸の文化も伝えられ、だんな衆と呼ばれた豪商を中心に豊かな文化が花開いたところでもあります。

だんな衆は、贅を尽くした工芸文化を育て、良質な水と山海の豊富な食材から、酒をはじめとした食文化も発展させ、京都と江戸の良さを合わせ持った高山独特の文化を形成していきました。また、彼らの財と飛騨の匠と言われる名工によって町家建築も頂点を極めました。当時の佇まいは、戦災の惨禍を受けなかったことで、その風情を残し、今に伝えられています

北アルプスを望む雄壮な景観や温泉、食の楽しみに加えて、これらの文化的遺産は、遠く海外からも訪れる多くの観光客を魅了しています。

特に「さんまち」と呼ばれる重厚な町家が並ぶ街並みは、高山で最も賑わう観光地になっています。近年、かつてなかったほど町家への関心が高まっていることもあり、この古き情緒ある街並みを慕って訪れる観光客は後を絶ちません。

高山の町家の魅力は、出格子に代表される特徴ある外観、それに何と言っても、飛騨の匠の高度な技術が余す所無く駆使された構造と内部空間にあります。歳月を経て深みのある味わいを出す木肌や、仕口で組まれた木構造の美しさは、民家と言えど、文化の粋を感じさせるほどのものがあります。

町家には建築物としての魅力だけでなく、現代人が必要としている循環型社会への叡智が秘められています。火鉢や暖炉で冬の寒さは凌げても、冷房器具などなかった当時の夏を涼しく過ごすためになされた様々な工夫もその一つです。通り庭(※1)や表の格子は風の抜け道となっており、家の中に風を呼び込むとともに室内の熱気を追い出してくれます。炊事場も通り庭に沿って置かれ、調理の熱気は火袋(※2)の天窓からそのまま外に逃がすことができます。生活に潤いを与えてくれる中庭も涼を呼ぶ恰好の手段となっています。これらは現代生活に取り入れたい省エネの知恵でもあります。また、家の裏手に必ず置かれた土蔵は、夏の直射日光や輻射熱を遮るだけでなく、軒先の水路とともに持続可能な住環境を保つための防火対策でもありました。

建て込んだ町中にあっても、町家の玄関庭や路地庭の植栽は目を和ませ、緑が呼ぶ小鳥や虫、光や風が自然を感じさせます。町家には、代々ここで快適に生活を楽しんでいた人々のぬくもりが今なお感じられ、それもまた経済効率一辺倒の社会に疲弊しつつある現代人を引きつけて止まない魅力となっているのかもしれません。

町家の現状

しかし、脚光を浴びる裏側では、そうした伝統的木造家屋の多くが高齢者世帯であり、老朽化の進行や維持の困難性に直面しています。後継居住者がいない場合も多く、解体の危機に瀕していたり、空き家となっている家屋も少なくなく、老朽化により家屋が損傷しています。
また、町家が解体された後には新建材で建築された家屋が建ち、街並み形成上憂慮すべき事態に陥っています。跡地が駐車場などになることもあり、中心市街地が歯抜け状態になりかねない状況なのです。

こういった危機的状況をもたらした原因には、町家が建てられなくなって既に60年以上が経過していて、この間、町家の構法にふさわしい手入れもされなかったため、町家を建てて維持していく技術が失われてしまっているということがあります。しかも現行基準は町家の構法を認めていません。しかし、その考え方が全く異なるため、現在の構法で改修することは町家に大きなダメージを与えかねないのです。また、町家に使われている木材や材料の流通システムはすでになく、必要な材料も手に入らないのが現状です。税金や相続などの制度が町家を守っていけるようになっていない、という法制度の不備も現状に拍車をかけています。

町家再生の意義

町家を再生しようとすることは、単に町家を住めるようにすれば済むという問題ではなく、克服すべき問題が山積されているのです。しかし、逆の見方をすれば町屋の保全・再生が一般化するなかで、それらの問題の解決が図られていくということでもあります。つまり、保全・再生が行われなかったからこそ生じてしまった現状であるわけで、地域に密着した町家の再生が行われれば、住まい造りの適正技術、循環的な流通システム、現代生活に則した経済および法律や制度、アイデンティティ、あるいはコミュニティの再生を併せて行うことになるからです。それは、言わば、一戸の民家が社会的遺産に昇華されていく過程でもあるのです。そこから私達は、持続可能な社会の雛形を学び取ることができるでしょう。そして、そこにこそ町屋再生の現代的意義があるのではないでしょうか。